デンマークから日本への「逆輸入」別府大河 EPOCH MAKERS
別府大河 EPOCH MAKERS代表
イギリス育ち。デンマークに留学中、日本語インタビューメディア「EPOCH MAKERS」を立ちあげる。現地のデンマーク人や日本人、起業家やデザイナー、シェフ、農家、政治家、DJなど、ボーダーレスにあらゆる角度から取材し、未来の社会のあり方をデンマークから探求する。四角大輔氏のアシスタントプロデューサーとしても活動中。
デンマークから日本への「逆輸入」
デンマーク、行ったことありますか? どれくらい知っていますか?
パッと思いつくのは「デザインがイケてる」「税金が高い」くらいかもしれません。でもこの国にはすごいところがたくさんあって。デンマークの社会ってすごくリラックスしていて、ピースで居心地がいい。それでいて、心身ともにとても豊かなんですよね。
実際に調べてみると、今年の国連が発表した幸福度ランキングは、デンマークが世界第1位(当時2015年は3位)。ほかにも、一人当たりのGDPは日本の約1.7倍で世界6位だったり、世界で2番目に平和だったり、個人の自由度や社会の寛容度も世界トップクラスだったり。
その理由が知りたくて、『EPOCH MAKERS』を立ち上げました。デンマークで活躍しているイケてる人を見つけてはアポをとり、インタビューして、日本に発信しはじめました。実際にお話を聞いてみると、予想以上に面白くって!
実は、日本とデンマークってすごく相性がいいんですよ。たとえば、デンマークのデザインは日本で人気ですが、ちょうど明治時代を迎えた頃に、デンマークは日本からデザインを必死に学んでいたんですよね。それをもとに、今のシンプルなデザインが成熟していった。だから、日本でいま起こっているのは単なる流行りではなく、日本文化の逆輸入とも言えるんです。
あとは、「今この瞬間に集中する」「現状に満足する」という価値観や、共生しようとする世界観は、近代化する以前の日本人の価値観とものすごく似ている。だから、ぼくが伝えてることの本質は、ぼくら日本人がはるか昔に見ていた世界を、デンマークを通して伝えているだけなのかもしれません。そして、そこに未来のヒントがあって、だからぼくはこのメディアをやる意味があるんだと信じているんです。
プロサッカー選手への夢からメディア立ち上げへ
でも、このメディアの立ち上げ当時は「社会のため」といった理由とか目的はあまり考えていなかったんです。ただ好きで好奇心のままにやっていたら、意味はあとからついてきた。
もともとぼくは留学のためにデンマークに1年間いました。行く前は「どんな授業があるんだろう?」「海外の人って何を考えているんだろう?」とか、もうウキウキで。でも実際には、授業がそんなに面白くなかったんです。まわりの留学生も、平日は授業に通って金曜日はクラブでダンスしてばかりだし、いかに有名な企業でインターンするかに必死でした。ぼくは「なんか違うな…」と。
それで、留学して2ヶ月目に始めたのが、サッカーでした。近所にスタジアムがあって、そこのオフィスのドアをノックして「サッカーやらせてください」って。そしたら、「明日の18時にあのロッカールームに来てね」と。まさかそこが、デンマーク2部リーグのプロチームだったなんて知らずに(笑)。
ぼくが入ったのは、チームの下部組織的なアマチュアのサテライトチームで、最初の1ヶ月の入団テストに合格し、いよいよ試合にも出れる段階まで来ていました。2ヶ月くらい経ったそんなある日、コーチから一本の電話が。
「今日でチームは解散だ」
始まりも終わりも極端に唐突すぎますよね(笑)。初めはクビだと思ったんですが、どうやら経営的にそのチームは閉鎖されたみたいで。プツンと、ぼくの生きがいは突然なくなっちゃったんです。
それで次に何をしようかと考えていた時に、いつの間にかデンマークのことが好きになっていた自分に気づいたんですよね。「それならインタビューして発信しよう!」って。もともと英語は話せたし、留学前にインタビュアーの仕事もしていたし、サイトの作り方もわかっていたので、すぐに行動に移して、プロジェクトを始めました。
チャレンジを肯定し、応援する側でありたい。
ぼくは、デンマークが全部素晴らしくて、日本は全然ダメだなんて思っていません。でも、社会や教育のあり方は、日本よりデンマークの方がずっと好きです。
デンマークの高負担・高福祉な社会システムを噛み砕くと、「私たちはみんなで一緒に生きています。この社会に参加するには、お金がけっこうかかります。でもそのお金は、仲間を助け、あなたのことも助けてくれます」というもの。ギブ・アンド・テイクじゃなくて、ギブ・アンド・ギブ。医療費も教育費も無料で、権利が平等だから、社会は自由で寛容なんです。
当時つい数ヶ月前まで看護師だった23歳の女の子の友達は、「私はビジネスマンとして社会に貢献したい」と仕事を辞めてビジネススクールに入りました。サラッと決めて、すぐに実現する彼女の姿は、ぼくには衝撃的で。しかも大学生は政府から毎月約9~10万円を支給されるので、彼女ももちろん対象内。こうやって新しいことにチャレンジしたい人に対して「NO」と言うのではなく、むしろ社会全員でその人の可能性の芽に水をやるのがデンマークのスタンスなんですよね。
こういう風に、チャレンジすることに対してポジティブな社会は、クリエイティブで高付加価値を生む人を育みやすいんだと思います。世界の歴史をひも解いても、自由かつ寛容な社会が発展している。仲間のチャレンジを応援し、自分のチャレンジも肯定してくれる社会がいいですよね。少なくとも、ぼくはそっち側でありたいです。
日本の文化の蓄積を競争力の源泉に
でも、日本にだっていいものがあります。それは、日本の文化だと思います。
少し大げさに言うと、いまの日本社会のほとんどは、ヨーロッパから輸入したものでできていますよね。明治以降、日本は欧米の背中を追って走り続けてきた。もちろん当時は最善の選択でしたし、昔の日本人は本当に凄かったと思います。ただ一方で、その過程で見捨てられてきたものも多いと思うんですよね。
だけど、文化は蓄積されるものだから、実は残っているものもあるんですよね。たとえば、昔の日本の家の中は、襖(ふすま)で部屋が区切られています。襖を開くと部屋はまたたく間に1つになる。縁側は部屋の中なのか外なのかよくわからない。家の外では、外部の景色を利用して自分の庭を拡張する借景庭園の技術も生み出しました。きっと昔の日本人にとって、境界線はいまよりはるかに曖昧で、人はもっと他人や自然とつながっていた気がするんですよね。
こういった日本の文化は、情報化社会にとても価値があると思うんです。すでに性別や国境が曖昧になっていますが、今後は、どこからが人間で、どこからが人工知能なのかさえわからなくなる。すでにぼくにとってiPhoneは身体の一部ですからね(笑)。そういう境界線が希薄化した社会において、日本が本来持っていた文化をすくい上げ、価値を再定義できれば、世界を前進させるためにすごく役立つと思うんです。
未来の美しい世界へとつづくメディアを
日本と同じように、デンマークもこれから訪れる社会と相性が抜群なんです。今後、人間は労働から解放されていきます。脳を拡張する人工知能が発展すれば、当然人間による知的労働はいらなくなるわけですから。その過程で、働き方や仕事そのものの概念も変わっていくと思います。
働き方という点では、デンマークはとても面白いんです。「週37時間労働」という法律があって、それを破ると企業が罰金を課せられるんですよ。お母さんが子供に向かって「勉強しすぎたらダメよ!」って叱っているようなもの(笑)。それでもデンマークは生産性が高くて、残業が多い日本より経済的に格段に豊かなんです。もうデンマークでは労働時間を減らして、生産性を高める方法論を持っているということ。それは、これからの世界ではものすごく価値があると思うんですよね。
あと、共生しようとする価値観や高福祉社会も、さらに注目されるようになってくると思います。人工知能が生産性を高めると、その資本を分配する圧力が必ずかかってきますから。産業革命が起きて共産主義が台頭した流れと同じですね。
だから、デンマークの社会は、これからさらに加速する情報化社会の一つのロールモデルとなると信じているんです。『EPOCH MAKERS』は、そこへと向かう舵取り役を担っていると思っています。人が境界線から自由になれたり、もっと共生する社会ができれば、未来の世界はもっと美しくなる。そしてそれは、デンマークや日本から作っていけると信じているんです。
◆世界最先端の北欧ヨーロッパ
デンマーク、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、ドイツ、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクは古くから貴族の歴史もあり、封建制などの発祥地です。昔からの富裕層文化が根付いています。今でも世界の金融や経済の中心でもあります。イギリス、アメリカが経済の中心ではありますが、まだまだヨーロッパ北西部に本部を置く経済団体も多いです。
発展途上の匡の情報を得る事も重要ですが、日本より先進している匡の情報を得る事も今後更に重要になってくるのではないでしょうか??